根本の黒い金髪が冷たい風に揺れ、寒そうに首を縮こませる。
「寒ぅ…、どこか入るか」
暖かなネックウォーマーに顔の下半分を隠し、手頃な店を探し始める。
しかしこの寒さと昼食近い時間帯のためか、どこもかしこも人で溢れていた。
とりあえず入った商業施設で、一息付くかと店探しにフロア案内を見上げた。
寿司も悪くないし饂飩もありだと流し見ていると、近くに凛凛しい犬の横顔が目に付いた。
「ハチ公の店、か?」
上司や先輩への土産話にいいかもしれないと、上の階を目指すことにした。
決して同じ階層にある和風のパフェに釣られた訳では無い、と自身に言い訳しながら。
エレベーターで件の店の階に到着すると、ふわふわの犬の縫いぐるみが群れを成してこちらを見詰めていた。
菓子から酒、わっぱなど秋田や秋田犬に因んだ品が並び、如何にも話のタネに良さそうだ。
菓子のセットとワインを数点、縫いぐるみも手に取った所で、店の奥で身を隠そうとする獣の後ろ姿を見付けてしまった。
そういえば、秋田犬は狼の系譜だったかと思い至り、見なかった振りをした。
他所の下っ端が自身に似た可愛らしい商品を買おうとしていたら、そりゃ居たたまれなくはなるだろう。
そそくさと必要な数の縫いぐるみを抱え、女性店員がいる会計へと持ち込む。
焦った様子で支払いをする強面にやや緊張を見せながら、きちんと贈答用の袋も確認する彼女は店員の鑑であろう。
予定に無かった買い物を両手に抱え、店を後にする刹那未だに尻尾を丸めて隠れる狼へ心の内だけ挨拶をした。
(上司には黙っておくんで、日本武尊にどうぞよろしく願います。)
どっさり背負った紙袋の重みを感じつつ、同じ階のある方向へ足を向ける。
そう言えば、と思い出した。
「ちょっと前にいきっていた洟垂れ小僧が、何時の間にか貨幣の象徴になるとはなあ」
尊皇だ忠義だと大騒ぎして寸での所で命拾いし、広い世界に打ちひしがれた男は、遂に後世で日本の名を冠する父と呼ばれるようになったのだ。
先程のハチ公の店に、彼の御仁の紙幣を2枚ほど落としてきた。
大分寒くなった懐を見て、辿り着いた茶寮を前にして躊躇する。
ショーウィンドーに展示されたパフェは、正に旨そうな甘味の詰め合わせとなって誘惑してくる。
がしかし、レプリカの足元に提示された金額が可愛くない。
数分間自問自答を繰り返した挙句、選んだ答えは。
「いらっしゃいませー! お一人様ですか?」